「この投稿、出して大丈夫でしょうか」。夜の十一時に担当者から連絡が来たことがあります。翌朝に予約していた投稿の文面が、社内の誰の確認も通っていませんでした。

先に結論を書きます。企業のSNS炎上対策として社内でできることの大半は、起きた後の対応ではなく、出す前の取り決めです。決めるものは五つあります。投稿を出す前に誰がもう一度読むか、自社として触れない話題はどれか、コメントへの返信と削除をどの基準で判断するか、どの端末で誰がアカウントにログインするか、何かあったときに誰へどの順番で連絡するか。この五つを紙一枚に書いておくかどうかで、担当者が夜中に一人で判断する場面が減ります。

炎上対策の中身は、起きた後の火消しではありません

批判が集まったあとに会社が選べる手は、あまり多くありません。すでに画面のコピーは他の人の手元にあり、消しても消したこと自体が話題になります。炎上が起きる前に会社ができるのは、社内の取り決めを先に書いておくことです。取り決めがない状態で起きる事故は、悪意のある投稿ではなく、ほとんどが判断の押し付けから生まれます。担当者が一人で「これは大丈夫だろう」と決め、誰も止める人がいないまま出てしまう形です。

受託でアカウントをお預かりしていると、投稿の文面そのものより、その文面を誰も読んでいない体制のほうが危ないと感じる場面があります。同じ文面でも、二人が読んでいれば直っていた表現は珍しくありません。だから最初に決めるのは、書き方の禁止事項ではなく、読む人を置くことです。

なお、実際に炎上が起きたあとの広報対応は、SNS運用の担当者だけで背負える範囲を超えます。ここで書くのは、その前段にある社内の運用ルールに限ります。

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出す前に、二人目が読む。それだけを先に決める

最初に決めるのは、投稿を出す前に誰がもう一度読むかです。役職や部署は問いません。作った本人以外の誰かが読む、という状態を作れば十分です。

このとき、確認する人を増やしすぎると運用が止まります。三人以上の承認が必要な形にすると、確認待ちで投稿が出せなくなり、やがて誰も守らない決まりになります。承認の人数と投稿の速さは、どちらかを取ればどちらかが落ちます。日々の投稿は二人目まで、キャンペーンや社会的な話題に触れる投稿だけ責任者まで、という二段の切り分けが現実的です。

確認する人には、何を見るかも渡してください。文章の良し悪しを感覚で判断してもらうと、確認は「なんとなく気になる」で止まります。見る場所を三つに絞ると機能します。事実の誤りがないか、社外の人や他社が特定される書き方になっていないか、社内の常識でしか通じない言い方をしていないか。この三つです。

図1 確認は二段に分け、二人目が見る場所を渡しておく

日々の投稿 作った本人 二人目が読む 予約に入れる キャンペーンや社会的な話題に触れる投稿 作った本人 二人目が読む 責任者まで上げる 二人目が見る場所は三つ ① 事実の誤りがないか ② 社外の人や他社が特定される書き方になっていないか ③ 社内の常識でしか通じない言い方をしていないか
上下の列で違うのは、最後の一段だけです。全部の投稿を責任者まで上げる形にすると、確認待ちが詰まって上の列まで止まります。

確認が終わっていない投稿を予約に入れない、という運用も合わせて決めてください。予約投稿は、承認前の文面がそのまま公開される事故が起きやすい場所です。誰がアカウントの予約を触れるのかという権限の話でもあるので、四つ目の「ログインできる人」と合わせて決めてください。

触れない話題を、自社の言葉で書き出す

次に決めるのは、自社として触れない話題です。一般的な注意事項を借りてくるのではなく、自社の事情で書き出してください。

書き出す場所は三つあります。一つ目は、業界の規制や表示のルールに関わる話題です。効能や効果をうたえない商材、価格の表示に決まりがある商材では、投稿文の一言が指摘の対象になります。二つ目は、取引先や仕入れ先に関わる話題です。自社では当たり前に話していることが、相手にとっては外に出したくない情報である場合があります。三つ目は、社会の出来事に関する話題です。災害や事件が起きた日に、予約投稿がそのまま流れる事故は、業種を問わず起きます。

三つ目については、話題そのものに触れるかどうかより、投稿を止める判断を誰がするかを決めておくほうが実用的です。大きな出来事があった日に予約投稿を止める権限を、担当者に渡しておいてください。上長の確認を待って止められなかった、という形がいちばん困ります。

書き出したものは、禁止事項の一覧ではなく「この話題に触れるときは責任者に相談する」と決めておくと運用に乗ります。全面禁止にすると、判断が必要な場面で相談ではなく黙って回避することになり、何が危なかったのかが社内に残りません。

コメントへの返信と削除の基準を、先に決める

投稿を出したあとに担当者が迷うのは、届いたコメントへの対応です。ここに基準がないと、返す相手と返さない相手が日によって変わり、その差が別の批判を呼びます。

基準の前に、投稿が出たあと誰がいつコメント欄を見るかを決めてください。予約投稿を夜や休日の時刻に入れていると、公開された時刻に誰も画面を見ていない状態になります。批判のコメントが付き始めても、担当者が気付くのは翌朝か休み明けになります。予約の時刻を担当者が見られる時間帯に合わせるか、公開の直後に見る人を決めておきます。

決めるのは三つです。返信するもの、返信しないもの、削除するもの。商品や納期に関する質問には返す、感想には定型の一言を返す、といった線引きを先に引いてください。返さないと決めた種類のコメントは、担当者が読んで無視するのではなく「返さないと決めている種類」として扱えるようにします。

図2 届いたコメントを、三つのどれかに割り振る

届いたコメント 返信する ・商品や納期の質問 ・感想には定型の一言 返信しない ・返さないと決めている  種類として扱う 削除する ・個人が特定できる情報 ・他の人への攻撃 ・同じ文面の繰り返し 右の列は書かれ方だけで決めます。自社への批判は、書かれ方が問題ないなら残します。
真ん中の列があることが大事です。ここが無いと、返さなかったコメントが「見落とし」なのか「返さないと決めた種類」なのかを、後から説明できません。

削除の基準は、内容への賛否ではなく、書かれ方で決めてください。個人が特定できる情報が書かれている、他の人への攻撃が含まれている、同じ文面が繰り返し投稿されている。こうした形で線を引くと、批判的な意見を消したという指摘を受けにくくなります。自社への批判は、書かれ方が問題ないなら残す、と決めておくほうが後々の説明が楽です。

削除したときは、日時とコメントの内容、削除した理由を記録に残してください。記録がないと、後から社内で説明ができません。この記録は、外部に運用を委託している場合、契約の中で誰が保管するかを決めておく対象にもなります。委託先との取り決めについては、SNS運用代行の契約書で確認する条項に整理しました。

会社のアカウントを触る端末と、ログインできる人を決める

四つ目は、アカウントそのものの扱いです。文面を二人で確かめても、出す先のアカウントを間違えれば事故になります。担当者が自分の個人アカウントと会社のアカウントを同じスマートフォンで切り替えて使っていると、個人に出すつもりの投稿が会社のアカウントから出ることがあります。逆に、会社として出すはずの告知が個人のアカウントに出ることもあります。

決めることは三つです。

  • 会社のアカウントを操作する端末。 個人のアカウントが入っていない端末に限れるなら、取り違えは起きにくくなります。限れない場合は、投稿を押す前に画面に出ているアカウント名を読み上げる、という一手を確認の手順に入れます。
  • ログインできる人。 一つのパスワードを何人かで使い回すと、誰がいつ投稿したのか、誰がコメントを消したのかが後から分かりません。Instagramをビジネス用のアカウントにしてFacebookページと紐づけていれば、Metaのビジネス向けの管理画面から、パスワードを渡さずに人ごとに権限を付けられます。
  • 人が抜けたときに権限を外す人。 退職や異動、外部の委託先が代わったときに、前の担当者の権限やログイン情報が残ったままになる例は珍しくありません。外す作業を誰がやるかまで決めておきます。抜けるときに何を引き継ぐかはSNS担当者が代わるときに引き継ぐものにまとめました。

何かあったときの連絡の順番を、名前で書いておく

五つ目は、投稿に批判が集まり始めたときの連絡の順番です。ここは役職名ではなく、個人の名前と連絡手段で書いてください。「広報担当」と書いてあっても、夜間や休日にその人へ届く手段が分からなければ、担当者は誰にも連絡できません。

書く内容は四つで足ります。最初に連絡する人、その人に届かなかったときの次の人、連絡する手段、そして連絡した時点で担当者が独断でやってよいことと、やってはいけないことです。最後の一つが抜けやすい項目です。投稿を消してよいのか、コメント欄を閉じてよいのか、返信を止めてよいのか。判断が保留されている間に担当者が何もできず、時間だけが過ぎる形を防げます。

図3 連絡の順番に書いておく四つ

何かあったときの連絡(紙一枚に書いておく) ① 最初に連絡する人 個人の名前 ② 届かなかったときの次の人 個人の名前 ③ 連絡する手段 夜間や休日にその人へ届く手段 ④ 連絡した時点で、担当者が独断でやってよいこと/いけないこと 投稿を消してよいか、コメント欄を閉じてよいか、返信を止めてよいか 役職名ではなく、個人の名前と連絡手段で書いてください。
①から③は名前と手段を書き写せば埋まりますが、④だけは自社で決めてから書く欄です。抜けるのはいつもここです。

急いで謝罪文を出す判断は、この一覧には入れないでください。文面を出す判断は、SNSの担当者ではなく会社として決めるものです。担当者が持つのは、いま起きていることを正確に伝える役割と、それ以上広げないための一時的な操作までにとどめます。

ルールは一枚に収め、更新する担当を決める

ここまでの五つを書くと、A4で一枚に収まります。分量が増えたら、それは運用ルールではなく規程になっており、日々の投稿の前に読まれなくなります。

作ったあとに必要なのは、更新の担当を決めることです。商材が変われば触れない話題が変わり、担当者が代われば連絡の順番が変わります。半年に一度、誰が見直すかを決めてください。アカウント全体の点検と同じ時期にまとめてしまうと手間が減ります。点検の項目は企業のインスタアカウント運用を点検するに書きました。

まず今週やることを一つ挙げるなら、投稿を出す前に読む二人目を決めて、その人に見る場所を三つ伝えるところまでです。残りの四つは、その次で構いません。