「解約を申し出たら、まだ契約期間が残っていると言われた」。SNS運用代行の契約を終えたい担当者から、こうした相談を受けることがあります。原因の多くは、契約前に契約書の条項を確認していなかったことです。この記事では、契約前に条項として確認しておきたい項目を、契約書の書かれ方に沿って整理します。質問リストではなく、契約書のどこに何が書かれているかを中心に見ていきます。なお、契約内容の法的な解釈が必要な場面では、弁護士など専門家に確認することをおすすめします。
成果物の著作権と利用範囲
動画や画像、台本などの成果物について、著作権が制作会社に残るのか、発注者側に譲渡されるのかは、契約書によって扱いが異なります。著作権を譲渡する契約もあれば、利用を許諾するだけで著作権自体は制作会社に残る契約もあります。
利用範囲の条項も見ておきたい部分です。SNS上での利用に限定されているのか、広告や別の場所での利用も含むのか、契約終了後も過去の投稿素材を使い続けられるのかは、条項によって差があります。契約終了後に過去の投稿を広告に転用しようとしたら、利用範囲外だったという食い違いは起こり得ます。
著作権を譲渡してもらうか、利用許諾にとどめるかは交渉の余地がある部分です。一方で、制作の過程で培われたノウハウや構成の型そのものは、通常は交渉の対象になりません。
著作権が制作会社に残る契約でも、SNS上での利用を続けるだけであれば実務上困ることは少ないのが実情です。問題になりやすいのは、契約が終わったあとに素材を広告出稿や別のウェブサイトに転用したいと思ったときです。利用範囲の条項を確認しておかないと、そのタイミングになって初めて制約に気づくことになります。
アカウントとデータの帰属、再委託の可否
アカウントのログイン情報を誰が管理するか、契約終了時にアカウントがどう返却されるかは、条項として明記されているかを確認しておきたい部分です。フォロワーや投稿データ、インサイトのエクスポートが可能かどうかも、あわせて見ておく必要があります。
再委託(制作会社がさらに別の会社や個人に業務を委託すること)についての条項も見落とされがちです。再委託を認めるかどうか、認める場合に事前の通知や承諾を必要とするかは、契約書に定めがあるかないかで対応が変わります。
再委託の事前通知を義務づけることや、契約終了時のアカウント返却手順を明文化することは、交渉で追加しやすい部分です。一方で、制作会社内部の役割分担そのものに口を出すことは難しい場合があります。
アカウントの帰属で特に確認しておきたいのは、契約終了時に二段階認証の設定やパスワードがどちらの手元に残るかです。運用会社が設定した認証情報のまま契約が終わると、次の運用先に引き継ぐ際にログインできない、という事態が起こり得ます。契約終了時の手順を先に決めておくと、この種のトラブルを避けられます。
解約予告期間と最低契約期間
最低契約期間が設定されているか、途中解約した場合にどう扱われるかは、契約書の中でも確認を怠りやすい条項です。解約を申し出てから実際に契約が終了するまでの予告期間も、あわせて定められています。
予告期間が長く設定されている契約では、解約を決めてから実際に運用が終わるまでに時間がかかります。逆に短すぎると、後任の体制が整わないまま運用が止まる可能性もあります。
受託で運用を引き継ぐ際に、前の契約書を見せてもらうと、解約予告期間がどこにも明記されておらず、口頭のやり取りだけで解約時期が決まっていた例に出会うことがあります。書面に残っていない期間は、あとから双方の記憶が食い違う原因になります。
予告期間の長さや、最低契約期間の見直しは、契約の段階であれば交渉できる余地があります。ただし、制作会社側が事業運営上譲れないラインとして設定している場合もあり、交渉が難しいこともあります。
レポート提出義務と秘密保持
レポートの提出頻度や形式が契約書に明記されているかどうかも確認しておきたい部分です。「月次で報告する」という口頭の約束だけで、契約書には記載がないケースもあります。書面に残っていない約束は、担当者が変わった際に引き継がれない可能性があります。
秘密保持の条項では、どちらの情報を、どの範囲で、いつまで守る義務があるかが定められています。多くの契約では、この義務は契約終了後も一定期間続きます。
レポートの提出頻度や記載項目を具体的に書き加えてもらうことは交渉しやすい部分です。一方で、秘密保持の存続期間そのものを大幅に短くすることは、通常は難しい交渉になります。
レポートの内容についても、指標の数字を並べるだけなのか、数字の背景にある考察までを含むのかは、契約書の書き方だけでは分からないことがあります。提出頻度と並べて、レポートの形式や項目の見本を契約前に見せてもらうと、実際の運用が始まってからの認識のずれを防ぎやすくなります。
禁止事項と炎上時の対応
禁止事項の条項には、競合他社との同時契約を禁じる規定や、投稿内容に関する制限が定められていることがあります。何が禁じられているかを事前に把握しておかないと、契約後に想定していなかった制約に気づくことになります。
炎上やトラブルが起きたときの対応フローと責任範囲が契約書に書かれているかどうかも重要です。投稿の削除判断を誰がするのか、対応にかかる追加費用が発生するのかが決まっていないまま契約している例もあります。
受託の現場では、契約書に秘密保持の条項はあっても、炎上時の対応フローについては何も定められていない契約書を見かけることがあります。トラブルが起きてから対応を決めるより、契約の段階で流れを合意しておくほうが、双方にとって動きやすくなります。
対応フローには、誰が第一報を受けるか、投稿の削除や非公開化を判断する権限が発注者側と制作会社側のどちらにあるか、対応にかかる工数が通常の契約範囲に含まれるかどうかが関わってきます。これらが契約書に一言も書かれていない場合、実際にトラブルが起きたときに、誰が何をすべきかを一からその場で決めることになります。
契約書を受け取ったら、この5つの条項に印をつけて、書かれているかどうかを確認してください。書かれていない項目があれば、それは「決まっていない」ということです。契約前に相手に確認し、書面に残すよう依頼してください。