「工場の中は、ほとんど撮れないですよ」。製造業の会社でインスタグラムの運用を始めるとき、最初の打ち合わせでよく出てくる言葉です。図面は出せない、取引先の名前が入った梱包材は写せない、ラインの全景も見せられない。そこまで並べたところで、では何を投稿するのかという問いで話が止まります。
先に結論を書きます。製造業のインスタは、投稿の企画を考える前に、自社の敷地の中で写していいものと写してはいけないものを一度だけ線引きしておくと、その後がずいぶん楽になります。企画が止まる原因は、ネタがないことよりも、撮っていいかどうかを毎回誰かに聞かなければいけないことのほうにあります。
製造業のインスタは、撮れるものを決めてから始めます
多くの会社では、担当者を決めた後、まず投稿のネタ出しをします。製造業では、この順番だと動きが止まります。ネタを出しても、そのネタが撮影できるかどうかを工場長や品質保証の部署に確認しないと、撮影日を決められないからです。確認が一件ずつ発生すると、投稿を四本出すために四回の確認が要ります。担当者はこの往復で消耗します。
順番を入れ替えます。最初にやることは、写せるものの一覧を作ることです。企画はその一覧の中から選びます。一覧に入っていないものを撮りたくなったときだけ、確認を出します。この形にすると、確認は例外のときだけになり、企画から撮影までが同じ週の中で終わります。
「撮れない」を三つに分けると、残るものが見えます
現場で「撮れない」と言われるものは、理由が三つに分かれます。分けずにまとめて禁止にすると、本当は出せるものまで出せなくなります。
一つ目は、取引先に関わるものです。受注品そのもの、図面、型、伝票、ロゴの入った梱包材。これは自社の判断だけでは決められないので、原則として写しません。
二つ目は、自社の技術に関わるものです。治具の形、加工の順番、機械に表示されている設定値。ここは会社によって線が違います。同業が見れば分かってしまうものと、見たところで真似のできないものが混ざっているので、現場の人に「これは見られて困りますか」と一つずつ聞く価値があります。困らないと言われるものが、思ったより多く残ります。
三つ目は、人です。従業員の顔、私物、休憩中の様子。これは技術の話ではなく、本人の同意の話です。顔を出してよい人とそうでない人を先に分けておけば、撮影の当日に迷わずに済みます。
三つに分ければ、一つ目は諦める、二つ目は個別に聞く、三つ目は同意を取る、と対応が変わります。ここまで整理すると、写せるものが具体的に残ります。
見られているのは完成品よりも、工程と手元です
製造業のアカウントの投稿を見比べると、完成した製品の写真より、それが形になっていく途中の映像のほうが最後まで見られる傾向があります。金属が削られて切りくずが出るところ、材料が混ざって色が変わるところ、検査で寸法を測っている手元。どれも数十秒で終わる短い映像です。
理由ははっきりしています。完成品の写真は、自社サイトやカタログにすでにあります。同じ写真をインスタに置いても、見る人にとっては新しい情報になりません。一方で、工程は外の人がふだん見る機会がありません。
撮影に立ち会うと、最初の一時間はほとんど撮影に使われません。どこにカメラを向けていいかを、その場で確認する時間になります。そしてその一時間が終わると、今度は現場の人のほうから「これも撮ったらどうですか」と案が出てきます。写していい範囲がその場で共有されると、企画は現場から出てきます。
音も同じです。プレスの音、研磨の音、コンプレッサーの音。工場の人にとっては毎日の音ですが、外の人はこれを聞いたことがありません。映像に音を残すかどうかは、撮る前に決めておきます。
撮影の許可は、一件ずつ取らずに範囲の表を作ります
表の作り方を書きます。列は三つで足ります。「対象」「公開の可否」「条件」です。
対象の欄には、加工の手元、機械の全景、工場の外観、作業者の顔、置いてある材料、というくらいの単位で書きます。条件の欄には、「型番が読めない距離なら可」「背面の棚が入らない角度なら可」のように、撮る人がその場で判断できる言葉で書きます。可否だけを書いた表は、当日に使えません。
この表は、工場長と品質保証の担当者と、実際に撮る人の三人で一度作ります。作った後は、表にあるものは確認なしで撮ります。表にないものが出てきたときだけ、その都度足していきます。半年ほど回すと、表はほとんど埋まります。
もう一つ決めておくと楽なのは、止める場所です。撮影の段階では自由に撮ってよいことにして、公開の前に一人が見る。この形にすると、現場での撮影が萎縮しません。撮った素材を全部出す必要はないので、迷ったものは公開しないという判断がその場でできます。
投稿文の専門用語は、全部は開かずに一つだけ開きます
投稿文を書くときに迷うのが、専門用語をどこまで平易な言葉に置き換えるかです。全部をやさしくすると、同業の人には物足りない文章になります。逆に全部を専門用語のままにすると、採用の候補者や地域の人には読めません。
現実的な折り合いは、一つの投稿で開く用語を一つだけに絞ることです。その投稿の主題になっている言葉を選び、初めて出てきたところで一度だけ意味を書きます。残りの用語はそのまま使います。読む人は、分からない言葉が一つ二つ混じっていても、主題の言葉さえ分かれば最後まで読みます。全部を開いた文章のほうが、かえって何の話か分からなくなります。
社名や部署名の入れ方も先に決めておきます。担当者が変わるたびに書き方が変わると、過去の投稿と並べたときにばらつきます。
最初の三ヶ月で作るもの
やることを三つに絞ります。
一つ目は、写せるものの表を作ることです。関係者を集める時間さえ取れれば、一度で終わります。二つ目は、工程の映像を溜めることです。投稿する予定がなくても、現場に行った日に撮っておきます。三つ目は、毎月数える数字を一つだけ決めることです。製造業のアカウントは見る人の数がもともと多くないので、増減に振り回されない一つを選び、月に一度だけ見ます。
次の現場に行く日が決まっているなら、その日までに表の対象欄だけを書き出してみてください。工場長に見せる紙が一枚あると、確認は一度で終わります。