「他社の成功事例を集めて社内会議に出したのですが、うちでは無理だという話で終わりました」と、企業の担当者から聞いたことがあります。集めた事例は十件以上あり、業種も近いものが選ばれていました。それでも社内では動きませんでした。
先に結論を書きます。インスタの企業事例から取り出すべきものは、伸びた投稿の中身ではなく、その投稿が作れた条件です。写真を誰が撮っているのか、原稿を誰が書いているのか、確認に何日かかっているのか。この条件が自社と違えば、同じ投稿は作れません。逆に条件さえ近ければ、業種が違っても真似できます。
事例の集め方を変えると、社内会議で「うちでは無理だ」と言われる回数が減ります。この記事では、事例をどう選び、そこから何を取り出すかを書きます。
数字だけを見た事例は、社内で否定されます
事例として紹介されるものの多くは、フォロワーが何倍になった、この投稿が何万回見られた、という結果から語られます。結果は分かりやすいので集めやすいのですが、社内に持ち込むと止まります。
止まる理由ははっきりしています。結果を見せられた側は「うちにその体制はない」と考えるからです。専任の担当者がいる、撮影に人を出せる、商品が写真映えする。こうした前提が自社と違うことは、見ればすぐ分かります。そして前提が違うと分かった時点で、中身の議論に入る前に話が終わります。
事例を持ち込む側が用意しておくのは、結果ではなく手順です。何を、誰が、どの順番で作ったのか。その手順が自社でも回せるなら、結果は後から確かめればよい話になります。
事例が自社に移せるかは、三つの条件で決まります
事例を見つけたら、次の三つを確かめます。
一つ目は、素材の作りやすさです。その投稿に使われている写真や動画を、自社は毎月どれだけ用意できるか。店舗があって商品が並んでいる会社と、目に見える現物がない会社では、素材の集め方が根本から違います。ここが違うと、投稿の型ごと移せません。
二つ目は、社内で使える人手と時間です。事例のアカウントが週に何本出しているかを数え、自社の担当者が同じ本数を作れるかを考えます。作れないなら、本数を落としても成立する型を探す必要があります。
三つ目は、確認に何日かかるかです。投稿までに法務と広報の確認が必要な会社では、旬の話題に乗る型は最初から選べません。確認に時間がかかる会社は、時期に左右されない型を選びます。
この三つを事例ごとに書き添えておくと、社内の会議で条件の話から始められます。条件が合わないものは、その場で候補から外します。十件集めて三件しか残らないこともありますが、残った三件は実際に動かせる候補です。数を揃えることより、動かせるものを残すことを優先します。
同業の事例より先に、投稿の型が近いアカウントを見る
事例を探すとき、多くの担当者は同じ業種から探します。同業は社内の説明が通りやすいので、出発点としては妥当です。ただ、同業だけを見ていると候補がすぐ尽きます。
同業より広く見るなら、投稿の型が近いアカウントを探します。たとえば、一枚目に文字を大きく載せて説明を並べていく型、実際に使っている場面を短い動画で見せる型、担当者が顔を出して話す型。型は業種をまたいで通用します。自社が用意できる素材に近い型を使っているアカウントであれば、業種が違っても手順は移せます。
受託の現場で毎月やっている定点観測でも、参考になったのは同業の上位アカウントよりも、素材の条件が似ている他業種のアカウントでした。同業の上位は、たいてい長く続けてきた蓄積の上に立っています。始めたばかりの会社が同じ形から入っても、途中で人手が足りなくなります。
同業を見る価値は別のところにあります。同業のアカウントを見れば、その業種で書いてはいけないこと、写真に写してはいけないもの、確認が必要になる表現が分かります。これは他業種からは学べません。同業は制約の確認に使い、型の参考は業種をまたいで探す、と役割を分けておくと、探す時間が減ります。
事例から取り出すのは、投稿一本ではなく並び方です
事例を見るとき、伸びた投稿を一本だけ切り出して真似しても、同じようには届きません。その投稿の前後に何が並んでいたかで、受け取られ方が変わるためです。
見るのは、そのアカウントの直近の並びです。何種類の型を、どういう配分で出しているか。毎回同じ形を続けているのか、二つか三つの型を回しているのか。売り込みの投稿が何本に一本入っているか。この配分が、そのアカウントの設計です。
伸びた一本は、その設計の中で出た結果です。設計を抜きに一本だけを真似すると、自社のアカウントには型が一つ増えるだけで終わります。
自社に取り込むときは、いま出している型のどれと入れ替えるかまで決めます。足すだけにすると、型が増えて比べられなくなります。担当者が変わるたびに新しい型が足されて整理されないまま並んでいるアカウントは、どの型が機能しているかを後から判定できません。
入れ替えた後は、同じ型を五本以上出してから判断します。一本目が伸びなかったからといってすぐ戻すと、その型が自社で通用するのかどうかは分からないままです。試す期間を先に決めておくと、途中で社内から出る意見に振り回されずに済みます。
社内の説明に使うときの並べ方
集めた事例を社内に出すときは、次の順で並べると議論が中身に入ります。
最初に、その事例の条件を書きます。素材の作りやすさ、人手と時間、確認の日数の三つを、自社と並べて書きます。次に、取り出す手順を書きます。何を作り、誰が確認し、どの頻度で出すのか。最後に、自社で試すときにどの型と入れ替えるかを書きます。
結果の数字は、あれば添える程度にします。他社のフォロワー数や再生回数は、自社の会議では判断材料になりません。判断材料になるのは、自社で回せるかどうかです。
事例が一つも見つからない場合は、自社の過去の投稿から探します。半年分の投稿を並べて、反応が良かったものを型ごとにまとめれば、それが自社の条件で成立した事例になります。社外の事例より説明が通りやすく、条件のずれもありません。
今日からできること
自社のアカウントを開いて、直近半年で最も保存された投稿を三本選んでください。その三本が、どういう型で、誰が素材を用意し、確認に何日かかったかを書き出します。書き出した内容が、次に事例を探すときの物差しになります。
外の事例を集めるのは、その物差しを持ってからで間に合います。