「同業でうまくいっている会社と、同じ投稿をやってみたいんです」。不動産の会社との打ち合わせで、そう言われて画面を見せていただいたことがあります。並んでいたのは、入居前の部屋を歩きながら撮った動画でした。自社で同じものを撮る話に進んだところで、企画は止まりました。その月、撮影してよい部屋が一件もなかったからです。

先に結論を書きます。業種別のインスタ成功事例で自社に移せるのは、投稿の型(投稿の作り方の決まった形)と並べ方です。移せないのは、写真や動画を出すための許可の取り方です。不動産・アパレル・BtoBは、この許可の性質が業種ごとに違います。事例を見るときは、その会社が何を撮ったかより先に、何を撮っていい状態にしてあるかを見てください。

成功事例が真似できないのは、素材の許可が違うからです

事例を集めても自社の投稿が決まらないとき、多くの場合、足りていないのは企画ではありません。撮る対象に他人の権利が乗っているかどうかが違います。

自社の商品を自社の敷地で撮る会社は、思いついた日に撮れます。一方で、他人の家、他人の顔、他社の名前が入ったものを撮る会社は、撮る前に確認する相手がいます。この確認の相手が誰で、いつ返事をもらえるかが、投稿の本数をそのまま決めます。

うまくいっている事例のアカウントは、この確認をすでに終えた状態から投稿を作っています。見えているのは終わった後の姿なので、外から見ると企画力の差に見えます。自社で同じことを始めると、確認の段階に一週間かかって、そこで止まります。差が付いているのは撮影の腕ではなく、確認を毎回やるか、先にまとめて済ませてあるかのほうです。

事例の読み方そのものについては、インスタの企業事例を集めても、自社の投稿が決まらない理由に書きました。ここでは、業種ごとに確認する相手が誰なのかを分けていきます。

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不動産は、物件写真を出せる範囲が案件ごとに変わります

不動産の会社で撮影の対象になるのは、売買や賃貸で扱っている物件です。ここには持ち主がいます。売主や貸主の了解が要りますし、入居中の部屋であれば、住んでいる方の了解も別に要ります。

さらに、同じ物件でも時期によって出せる範囲が変わります。募集中は間取りと室内を出してよくても、契約が決まった後は下げることになります。事例で見た会社が室内動画を毎週出せているなら、その会社は自社で管理している物件を持っているか、撮影と掲載の了解を募集の受託時にまとめて取る形にしているかのどちらかです。

投稿の本数を先に決めてしまうと、撮れる部屋がない月に無理が出ます。不動産の会社では、物件そのものを写さなくても作れる型を二つほど用意しておくと、途切れずに続きます。周辺の環境、契約や引っ越しの段取りの説明、住み替えの検討順序といった題材は、部屋の許可が下りなくても撮れます。反応が出やすい題材の選び方は、工務店のインスタ集客で扱った土地の条件の話と近い考え方です。

アパレルは、商品と人で許可が二重になります

アパレルの事例で目に付くのは、着ている状態の写真や動画です。ここには二種類の許可が重なっています。一つは商品そのものの写真をどう使うかで、もう一つは写っている人の写り方をどう使うかです。

社外のモデルを起用した撮影では、撮影の時点で使い道の範囲が決められています。紙のカタログ用に撮った写真をそのままSNSに出せるとはかぎりません。仕入れた商品を扱う会社では、ブランド側から支給された写真に加工や切り抜きの制限が付いていることもあります。

社員が着る形に切り替えると、この二重の確認は一つ減ります。ただし、社員の顔を出すかどうかは本人の同意が要りますし、退職したときに投稿をどうするかを決めておく必要があります。事例のアカウントが顔を出さずに手元と商品だけで作っているなら、その会社は撮影のたびの確認を減らす形を選んでいます。

BtoBは、取引先の名前が写り込む場所を先に決めます

BtoBの会社で撮影が止まる理由は、自社の中に他社の情報が置いてあることです。納品先の名前が入った梱包材、図面、案件名の書かれたホワイトボード。これらは、撮ってから確認するのでは手戻りになります。

有効なのは、撮ってよい場所と撮ってはいけない場所を、社内で一度だけ線引きしておく方法です。工場や倉庫であれば、区画ごとに撮影の可否を表にして、現場に貼っておく形が続きます。取引先の名前を出せる事例が一つもない状態でも投稿は作れますが、その場合はアカウントの用途を売り込みから外して考えることになります。用途の決め方はBtoB企業のインスタ運用は何のためにやるかに書いたとおりです。

業種が違う事例からでも、投稿の並び方は移せます

ここまで業種ごとの違いを書きましたが、事例から取り出せるものもあります。それは、投稿の並び方です。

同業の事例より、素材の制約が近い業種の事例を見てください。不動産の会社が参考にできるのは、同じように他人の持ち物を撮る会社です。アパレルの会社が見るとよいのは、人が写る前提で運用している業種です。制約が近ければ、更新の頻度や型の数を、そのまま自社の予定に置き換えられます。

受託でお預かりする際も、最初に伺うのは競合のアカウント名ではありません。撮影の許可を誰に取っているか、返事にどれくらいかかるかの二点です。ここが分かると、月に何本出せるかが先に決まり、企画をその本数に合わせて組めます。逆にこの二点を確かめないまま企画から先に作った場合、初月の予定表の半分が撮れないまま残ります。

もう一つ移せるのは、許可の要らない題材の置き方です。事例のアカウントを新しい順に三十本並べると、許可の要るものと要らないものが混ざって並んでいるはずです。要らないものが半分近くあるなら、その会社は撮影が止まった月の穴を埋める用意をしています。自社でもその割合を目安にすると、確認待ちの期間に投稿が途切れなくなります。

事例を見る前に、社内で埋める一枚

事例集を開く前に、紙を一枚用意してください。書くのは三行です。自社で許可なく撮れるものは何か。許可を取れば撮れるものは何か。その許可は誰に、どれくらいの日数で取れるか。

この三行が埋まると、事例を見たときに真似できる投稿と真似できない投稿がその場で分かれます。分かれた後に、真似できる型を二つだけ選んで来月の予定に入れてください。