月次レポートの冒頭に、フォロワー数の推移グラフを毎回貼っている担当者がいます。数字は右肩上がりです。それでも、次のページで今月の成果を聞かれると、手が止まります。フォロワー数は増えているのに、それが何につながっているのかを説明できないためです。
原因の多くは、投稿の出来ではありません。KPIの選び方が、目的とかみ合っていないことです。SNSのKPIは、最終的に達成したいこと(KGI)に近づいているかを、途中の段階で確かめるための数字です。フォロワー数はその候補にはなりますが、多くの場合、主指標には向きません。
KPIとKGIは別物。KPIは「途中の物差し」、KGIは「最終的なゴール」
KGI(Key Goal Indicator)は、SNS運用によって最終的に達成したいことです。問い合わせの件数、資料請求の件数、来店や採用応募の件数など、事業の成果に直結する数字を指します。KPI(Key Performance Indicator)は、そのKGIに向かって進んでいるかどうかを、途中の段階で確認するための数字です。
この二つを混同すると、KPIの数字が良くても、KGIに近づいているかどうかが分からなくなります。フォロワー数が増えていても、問い合わせにつながっていなければ、KGIの観点では成果が出ていません。逆に、フォロワー数がそれほど伸びていなくても、投稿からの問い合わせが増えていれば、運用は狙いどおりに機能しています。
たとえばKGIを「問い合わせ件数を増やすこと」に置いた場合、KPIの候補になり得るのは、プロフィールへのアクセス数や、投稿からのリンククリック数です。フォロワー数は、KGIに至るまでのどこかで動く数字ではありますが、KGIそのものではなく、KPIとしても間接的な位置づけになります。KPIを決める前に、まずKGIを一つに絞ることが出発点になります。
目的によって主指標は変わる。認知・検討・獲得のどこを狙うか
SNS運用の効果は、認知・検討・獲得という段階に分けて考えると整理しやすくなります。
- 認知の段階:まだアカウントを知らない人に、存在を知ってもらう段階です。リーチやインプレッションが主指標の候補になります。
- 検討の段階:アカウントを知った人が、興味を持って情報を探す段階です。保存やプロフィールへのアクセスが主指標の候補になります。
- 獲得の段階:興味を持った人が、問い合わせや来店といった行動に移る段階です。プロフィールのリンクをクリックした数や、問い合わせの件数が主指標の候補になります。
いまのアカウントが、この三段階のどこに課題を抱えているかによって、追うべき主指標は変わります。認知が足りていないアカウントが獲得系の指標だけを追っても、母数が小さいままなので数字は動きません。逆に、すでに一定のリーチがあるのに問い合わせにつながっていないアカウントなら、検討や獲得の段階の指標を見直す番です。三段階は一直線に進むとは限らず、投稿の種類によって狙う段階を使い分けている運用も珍しくありません。その場合は、投稿の種類ごとに、どの段階を狙っているかを先に決めておく必要があります。
SNSごとに使えるKPIは違う
同じSNSのKPIという言葉でも、実際に取れる数字はSNSによって違います。手元で確認できない数字をKPIに置いても追えないため、先に何が取れるかを確かめてください。
| SNS | 認知で使える数字 | 検討で使える数字 | 獲得で使える数字 |
|---|---|---|---|
| リーチ、インプレッション | 保存数、プロフィールアクセス数 | リンクのクリック数、DMの受信数 | |
| X | インプレッション | プロフィールへのアクセス数、リポスト数 | リンクのクリック数 |
| TikTok | 動画の表示回数 | 平均視聴時間、シェア数 | プロフィールのリンククリック数 |
| YouTube | インプレッション、視聴回数 | 平均視聴時間、チャンネル登録数 | 概要欄のリンククリック数 |
表の項目名はアプリや管理画面の更新で変わります。名前が変わっても数えている対象が同じなら、KPIとしては継続して使えます。名前だけを見て別の数字に乗り換えると、前月との比較ができなくなります。
複数のSNSを同時に運用している場合、SNSをまたいで同じKPIを並べることは避けてください。表示回数の定義がSNSごとに違うため、数字の大小がそのまま成果の差にはなりません。SNSごとに主指標を決めて、それぞれの中で時系列で追うほうが判断できます。
フォロワー数を主指標にすると起きること
フォロワー数を主指標に置くと、いくつかの問題が起きます。まず、フォロワー数は結果指標であり、投稿の内容そのものを直接は反映しません。フォロワー数が増えた理由が、キャンペーンによる一時的な流入なのか、継続的に見てくれる人が増えたことによるものなのかは、フォロワー数の推移だけでは判断できません。
もう一つは、フォロワー数を追いかけると、フォローされること自体を目的にした投稿が増えやすくなることです。プレゼント企画やフォロー&いいねキャンペーンは、短期的にフォロワー数を押し上げますが、事業の成果につながるとは限りません。フォロワー数という数字が独り歩きすると、投稿の評価基準がKGIから離れていきます。フォロワー数が増えているという事実だけで運用がうまくいっていると判断してしまうと、投稿の内容を見直す機会そのものが失われていきます。
受託でSNS運用に関わっていると、フォロワー数を目標に掲げたまま、その数字が問い合わせや売上につながっているかを誰も確認していない体制に出会うことがあります。フォロワー数のグラフは共有されているのに、その先にあるはずのKGIとの関係が、報告のどこにも出てこないという状態です。
見るべき指標の候補と選び方
目的の段階ごとに、主指標の候補を整理すると次のようになります。
| 段階 | 主指標の候補 | 補助指標の候補 |
|---|---|---|
| 認知 | リーチ、インプレッション | フォロワー数の増加数 |
| 検討 | 保存率、プロフィールアクセス率 | 滞在時間、コメント数 |
| 獲得 | プロフィールのリンククリック数、問い合わせ件数 | DMの受信数 |
主指標は、原則として一つに絞ります。複数の指標を並行して主指標に据えると、投稿ごとの評価基準がぶれ、何を改善すればいいのかが分かりにくくなります。補助指標は、主指標の動きを説明するために使うものと位置づけ、主役にはしません。
主指標を選んだら、最低でも1〜2ヶ月は変えずに追い続けてください。指標を頻繁に切り替えると、比較の軸がなくなり、改善の効果を確認できなくなります。一定期間追ったうえで、主指標がKGIの動きと連動しているかを確認し、連動が弱いと分かれば、そのときに初めて指標を見直します。
報告での見せ方
報告資料では、主指標をいちばん上に置きます。フォロワー数のグラフを冒頭に貼る習慣がある場合は、その位置を主指標に譲ってください。フォロワー数を報告から消す必要はありませんが、判断材料としての優先順位を下げる、という意味です。
主指標は、単月の絶対値だけでなく、時系列の推移で見せます。先月と今月、今月と3ヶ月前を並べることで、数字の動きに意味が出てきます。そのうえで、主指標がKGIとどうつながっているかを一言添えておくと、報告を受ける側もフォロワー数以外の数字で判断しやすくなります。数字を並べるだけでなく、その数字が動いた投稿がどんな内容だったかまで添えておくと、次に何を作るべきかの判断材料になります。
今月のレポートを開く前に、自分たちのKGIが何かを一行で書き出してください。そのうえで、認知・検討・獲得のどの段階に課題があるかを見極め、表の中から主指標を一つ選んでください。来月からは、その数字を報告のいちばん上に置いて追ってください。