「この見積書、有効期限が先週で切れていますね」。社内の承認が下りたあとに経理からそう言われて、発注が数日止まる場面があります。金額の欄は何度も見返したのに、有効期限の日付は誰も見ていなかった、という状態です。見積書は金額を伝える書類ですが、金額以外の欄にも、発注の進み方や請求額をあとから左右する条件が書かれています。この記事では、外注の見積書を受け取ったときに、金額の表の外で確認しておきたい欄を整理します。有効期限については、長さの目安と、期限が切れたときや書かれていないときの扱い、見積書を受け取った時点でどんな効力があるかもあわせて書きます。項目ごとの内訳の読み方はSNS運用代行の見積書の見方に、修正回数と納品形式は動画制作の見積もりを読み解くに分けてあるので、ここでは書式の側に絞ります。
有効期限まわりの答えを先にまとめると、次のとおりです。根拠と確かめ方は、それぞれの節に書きました。
| 確かめたいこと | 短い答え |
|---|---|
| 有効期限の一般的な長さ | 法律の決まりは無く、見積書を出す側が決める。2週間から6ヶ月が目安という解説がある |
| 有効期限の記載なし | 見積書としては有効と解説されているが、いつまでも同じ金額で発注できるわけではない |
| 有効期限切れ | 同じ金額で受けるかどうかは相手が決める。発注の前にメールで確かめる |
| 期限内の金額の変更 | 見積書を申込みとして見ると、期限内は出した側の都合だけでは取り消せない整理になる。取り消す権利を残すと書かれていれば別 |
| 見積書の効力 | 受け取っただけでは契約は成り立たない。内容を変えずに発注すると、その条件で契約が成り立つ整理になる |
金額の表の外に、何が書かれているか
見積書の様式は会社ごとに違い、書類の名前も「お見積書」「御見積書」と変わりますが、金額の表以外に置かれている欄はおおむね共通しています。
| 欄 | 何が書かれているか |
|---|---|
| 宛名 | 発注する側の会社名。請求書の宛名もこれに合わせることがある |
| 発行日と見積番号 | いつ出された見積もりか。同じ案件で何度か出し直すときの区別に使う |
| 有効期限 | いつまで同じ条件で受けてもらえるか |
| 受渡期日・受渡場所 | 成果物を引き渡す日(納期)と、届け先や受け取り方 |
| 支払条件 | 締め日、支払日、着手金の有無、振込手数料の負担 |
| 税の表記 | 金額が税抜か税込か。合計欄がどちらを指しているか |
| 備考欄 | 見積もりの前提条件。含まれない作業が書かれることもある |
宛名は、法人名で出てきているか、部署名や担当者名になっているかを見てください。請求書の宛名は見積書に合わせて作られることがあり、経理の処理もその宛名を前提に進みます。社内で請求書の宛名に決まりがある場合は、見積書の段階でそろえてもらう方が、あとで出し直しを頼まずに済みます。
見積番号は、同じ案件で見積もりを何度か出し直したときに、どの版かを区別する手がかりになります。条件を変えて3通目まで出してもらったのに、発注メールに「お見積りの件、進めてください」とだけ書くと、どの版で合意したのかが双方の記憶に残りません。発注するときは、見積番号と発行日をメールに書いておきます。
受渡期日は、成果物や品物を引き渡す日、いわゆる納期です。「◯月◯日」と日付で書かれることもあれば、「受注後◯営業日」「別途協議」と書かれることもあります。受注後の日数で書かれている場合、発注が遅れれば納品もその分遅れます。社内で公開日や使う日が決まっているなら、承認にかかる日数を足しても間に合うかを数えておきます。受渡場所は、物を納める取引なら届け先、データで受け取る取引なら受け取り方を確かめる欄として読んでください。
金額の表と違って、これらの欄は空欄のまま出てくることがあります。空欄でも、相手の社内では締め日や支払日が決まっていることがあります。書かれていなければ、締め日や支払日は、こちらが知らないまま相手の基準で決まります。空いている欄を見つけたら、発注の前に埋めてもらってください。
有効期限の意味と、長さの目安
有効期限は、その金額と条件で発注を受けられる期間です。期限を過ぎた見積書は、その金額で受けてもらえる保証が無くなったものとして扱ってください。過ぎたあとに発注すると、同じ金額で受けてもらえることもあれば、出し直しになることもあります。どちらになるかは相手の判断です。
見積書の効力と、契約が成り立つ時点
見積書を受け取っただけでは、まだ契約は成り立っていません。民法第522条1項は、契約の内容を示して締結を申し入れる意思表示(申込み)に対して、相手方が承諾をしたときに契約が成立すると定めています。会計ソフト会社の解説では、見積書の発行は、この申込みに当たると説明されています(マネーフォワード)。発注する側から見ると、見積書の内容を変えずに発注のメールや発注書を送れば、それが承諾に当たり、見積書に書かれた金額と条件で契約が成り立つという整理になります。
同じ条の2項は、法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立に書面の作成などの方式は要らないとしています。契約書を交わしていなくても、見積書に対して「この内容でお願いします」と返した時点で、その見積書の条件が取引の条件になりえます。宛名、受渡期日、支払条件、備考欄を確認するのは、発注を送る前です。
有効期限は、民法でいう承諾の期間(この申込みが生きている期間)に当たります。民法では、期間を決めた申込みは、その期間内に承諾の通知が届かなければ効力を失います(第523条2項)。期間に遅れて届いた承諾は、申込みをした側が新しい申込みとして扱うことができます(第524条)。期限が過ぎたあとの発注を同じ金額で受けるかどうかを相手が決められる、という扱いは、この仕組みに沿っています。条文はe-Gov法令検索の民法で読めます。
有効期限の内側については、第523条の1項に別の決まりがあります。承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができません(第523条1項)。見積書を申込みとして見ると、有効期限の内側で「やはり金額を上げたい」と言われても、見積書を出した側の都合だけでは取り消せない、という整理になります。ただし、申込みをした側が撤回する権利を残しておいた場合は別です(同項ただし書き)。備考欄に、金額を変えることがあるという一文が書かれていないかも、あわせて見ておきます。
有効期限の一般的な長さと、書き方
有効期限の長さを決めた法律は無く、見積書を出す側が決めます。2週間から6ヶ月が一般的な目安だという解説があります(freee、マネーフォワード)。期間で決める場合は「1か月」「月末まで」のような区切りのよい期間がよく使われる、という解説もあります(弥生)。幅が広いため、目安の日数と比べるより、受け取った見積書に書かれた日付を見てください。
有効期限は「◯年◯月◯日まで」と日付で書かれることもあれば、「発行日より1ヶ月」「見積後30日」のように期間で書かれることもあります。期間で書かれていたら、発行日から数えて何月何日になるかを先に出しておきます。終わりの日を発行日の翌月の同じ日と読むか、その前日と読むかで1日ずれることがあるので、気になる場合は受け取った時点で相手に日付を確かめてください。
日付が出たら、その日付と、社内の承認が下りる見込みの日を並べます。承認に2週間かかる会社で、有効期限が10日後の見積書を受け取ったら、その時点で間に合いません。気づいた時点で期限を延ばしてもらえるか聞けば、出し直しの手間が減ります。
図1 有効期限が10日後で、社内の承認に2週間かかる場合
期限が短いこと自体は、急かされているとは限りません。素材の使用料や出演者の拘束費のように、相手も他社から見積もりを取って組み立てている費用があると、その見積もりの期限に合わせて短くせざるを得ない場合があります。理由を聞けば、どこが動きやすい費用なのかも一緒に分かります。
有効期限が切れた見積書で発注するとき
社内の承認が下りた時点で、見積書の有効期限がすでに過ぎていることがあります。その場合は発注書を送る前に、相手に次の順で確かめます。
- 見積番号と発行日を書いて、「この見積書の金額と条件のまま発注を受けていただけますか」とメールで聞く
- 同じ条件で受けるという返答なら、その返答のメールを発注の記録と一緒に残す
- 金額や条件が変わるという返答なら、新しい見積書を出してもらい、新しい金額で社内の承認を取り直す必要があるかを確認する
「見積書の効力と、契約が成り立つ時点」の節で書いた民法第524条のとおり、期限を過ぎた発注を同じ条件で受けるかどうかは相手が決められます。同じ条件で受ける場合は、見積書を出し直さずに契約できるという解説もあります(freee)。ただ、電話やチャットの「大丈夫です」だけで進めると、請求の段階で新しい単価が出てきたときに、どちらの金額で合意したのかを示せません。返答はメールで受け取っておきます。
図2 有効期限が切れた見積書で発注するときの分かれ道
有効期限が書かれていない見積書をどう扱うか
有効期限の欄が無い見積書も届きます。有効期限の記載が無い見積書も、正式な文書として有効だと解説されています(マネーフォワード)。ただ、それは、いつまでも同じ金額で発注できるという意味ではありません。見積書を申込みとして見た場合、民法では、期間を決めずにした申込みも、承諾の通知を受けるのに相当な期間が過ぎるまでは撤回できないとされています(第525条1項)。裏返すと、相当な期間が過ぎたあとは、見積書を出した側が撤回できます。こちらも、撤回する権利を残しておいた場合は別です(同項ただし書き)。相当な期間が何日なのかは条文に書かれておらず、上の解説では、取引の内容や時期、業界の慣行などを考えて個別に判断される、と説明されています。人手の空き具合、素材の使用料、撮影を頼む相手の都合は時間とともに動くため、数ヶ月前の見積書がそのまま通る保証はありません。
書かれていない場合は、発注の前に「この金額はいつまで有効ですか」と一度聞いて、返答をメールに残しておきます。口頭で「大丈夫ですよ」と言われた場合も、その一言をメールで確認しておくと、担当者が交代したあとに同じ条件から話を始められます。
税抜か税込か、合計欄がどちらを指しているか
金額の表に並ぶ数字が税抜なのか税込なのかは、見積書の端に小さく書かれていることがあります。社内で予算を伝えるときにここを取り違えると、消費税の分だけ実際の請求額が上振れします。小計・消費税・合計の3行が揃っているかを見て、揃っていなければどちらの表記かを確認してください。
もう一つ見落としやすいのが、合計欄に入っていない費用です。交通費や素材の使用料が「実費別途」と書かれている場合、その金額は合計に含まれていません。合計の数字だけを社内に伝えると、あとから別の請求が来ます。何が別途になっているかを、合計欄を見た時点で確認してください。金額そのものを動かす要素の分解は動画制作の相場を分解するにまとめました。
支払条件は、見積書の段階で決まっていることがある
支払条件は契約書で決めるものと思われがちですが、実際には見積書の備考欄や末尾に書かれていて、そのまま取引の条件になることがあります。次の4つが書かれているかを見てください。
- 締め日と支払日:月末締めの翌月末払いなのか、翌々月なのか。自社の支払いの周期と合うかを経理に確認しておきます。
- 着手金の有無:金額の一部を発注時に先に払う形かどうか。制作の途中で止まったときの精算にも関わります。
- 振込手数料の負担:どちらが持つか。金額は小さいものの、毎月の取引だと請求額と入金額が合わない原因になります。
- 請求書の送り先:担当部署宛か、経理宛か。送り先が違うと、次の締めに回されて支払いが遅れることがあります。
これらが見積書に書かれていない場合は、契約書側に書かれているかを見ます。最低契約期間や解約の条件も含めて、契約書側で見る条項はSNS運用代行の契約書で確認する条項に分けてあります。
備考欄に書いてもらうと、あとで助かること
備考欄は空欄のまま出てくることがありますが、ここに前提条件が書かれていると、後の食い違いが減ります。書いてもらう価値があるのは次のようなものです。
- 見積もりが前提にしている数量。動画なら本数と長さ、投稿なら月あたりの本数
- 素材を誰が用意するか。こちらから渡す写真や商品の情報がある場合、その受け渡しの期限
受託の現場では、見積書を出したあとに前提が変わり、同じ金額のまま作業量だけが増えていく場面に立ち会うことがあります。多くは、前提が誰の頭の中にもあったのに、どこにも書かれていなかったことが原因でした。備考欄は、その前提を書き留めておける場所です。なお、追加費用になりやすい依頼と、範囲を超えたときの進め方はSNS運用代行の見積書の見方に整理しました。
見積書を受け取ったら、社内の承認が下りる見込みの日と、見積書の有効期限を並べてみてください。承認の方が後になるようなら、金額の話を始める前に、期限を延ばしてもらう相談を先に入れておきます。