見積書の一行に「撮影費 一式」とだけ書かれている。金額の欄は埋まっているが、撮影が何日なのか、出演者の手配が含まれているのか、機材のレンタル費が別なのかは、その一行だけでは分かりません。動画制作の見積もりを受け取った担当者から、こうした相談を受けることがあります。
動画制作の見積書は、金額の高い安いを比べる前に、その金額の中に何が含まれているかを確認するための書類です。この記事では、見積書に並ぶ項目の意味と、金額欄の外で確認しておきたい条件を、制作会社の内側から見た形で整理します。何が金額を動かすかという仕組みについては、動画制作の相場を分解する。金額を動かす六つの要素で扱っているため、ここでは触れません。
見積書に並ぶ項目が指しているもの
動画制作の見積書には、会社によって呼び方は違うものの、おおむね次の項目が並びます。
- 企画・構成費:動画で何を伝えるかを設計する工程の費用です。構成案や台本、絵コンテの作成が含まれます。
- ディレクション費:撮影から納品までの進行を管理し、発注側の窓口となる担当者の稼働にかかる費用です。
- 撮影費:撮影そのものにかかる費用です。多くの場合、カメラマンやスタッフの人件費、カメラや照明などの機材費、スタジオやロケーションの使用料の3つが合算されています。
- 編集費:撮影した映像をつなぎ、テロップや図解、色調整を加えて完成形に仕上げる工程の費用です。
- ナレーション・BGM:ナレーターの出演料や収録費、BGMの使用料や制作費です。既成の音源を使うか、曲を新たに作るかで中身が変わります。
- 諸経費:交通費、宿泊費、機材の配送費など、上記のどの項目にも当てはまらない実費です。
このほか、会社によっては次のような名前の行が別に立つことがあります。MA費は、ナレーションの収録や、声・BGM・効果音の音量のつり合いを整える作業の費用で、ナレーション・BGMの行と中身が重なることもあります。モーショングラフィックス費は図解や文字に動きをつける作業、CG費は発売前の商品や完成前の建物など、実写では撮れないものを描き起こす作業の費用です。キャスト費(出演費)は出演者に支払う費用で、撮影費に含める会社もあれば、別の行に分ける会社もあります。見慣れない名前の行があったら、上のどの工程に当たるのかを制作会社に聞いてください。
図1 見積書のどの行に、何が入っているか
これらが個別の項目として並んでいれば、何にどれだけの費用がかかっているかが見えます。会社によっては、企画・構成費とディレクション費をひとつにまとめて出すところもあれば、撮影費を人件費・機材費・場所代に分けて出すところもあります。項目の分け方に決まりはないため、見積書を受け取ったら、それぞれの行が何を含んでいるかを先に確認する必要があります。
「一式」とだけ書かれていたら
「一式」という書き方そのものが問題というわけではありません。会社の運用によっては、内訳を細かく出すこと自体に手間がかかり、一式でまとめたほうが双方にとって扱いやすい場合もあります。問題になるのは、内訳を尋ねても答えが返ってこない場合です。
受託の現場では、他社から乗り換えを検討している担当者から、それまで契約していた会社の見積書を見せてもらうことがあります。「撮影費 一式」という行だけで、撮影が何日分だったのか、出演者の手配が含まれていたのかが、発注していた本人にも分からなくなっているケースがありました。契約時に内訳を確認していれば、途中で撮影日数が減っていたことにもっと早く気づけたはずだという話でした。
一式表記の見積もりを受け取ったときは、その中に何が含まれているかを質問し、回答を口頭ではなくメールや見積書の余白など、記録に残る形でもらっておくことをおすすめします。回答があいまいなまま話が進む場合は、その対応自体が確認しておきたい材料になります。
複数社の見積もりを比較する前に、範囲をそろえる
複数の制作会社から見積もりを取ると、項目の立て方が会社ごとに違うことに気づきます。ある会社は企画費とディレクション費を分けて出し、別の会社はまとめて「制作進行費」として出します。ある会社は撮影費に出演者の手配料を含め、別の会社は出演者の手配を別項目にします。この状態で金額の合計だけを並べても、何が高くて何が安いのかを正しく比べることはできません。
比較する前に、次のような質問を各社に投げて、範囲をそろえておくことができます。
| 項目 | 各社に確認しておきたいこと |
|---|---|
| 企画・構成費 | 構成案や台本を何回まで提出してもらえるか |
| 撮影費 | 撮影日数、出演者の手配が含まれるか、ロケーション費が別建てか |
| 編集費 | テロップや図解をどこまで作り込むか、修正は何回まで含まれるか |
| ナレーション・BGM | ナレーターの手配が含まれるか、BGMは既成音源かオリジナル制作か |
| 諸経費 | 交通費や宿泊費が実費精算か、あらかじめ金額に組み込まれているか |
この表の右側を各社に埋めてもらってから金額を並べると、同じ土俵で比較できるようになります。逆に、この確認をせずに合計金額だけで発注先を決めると、契約後に「思っていた内容と違う」という食い違いが起きやすくなります。
範囲をそろえるには、見積もりを頼む時点で、各社に同じ条件を渡しておく方法もあります。動画を使う場所(どのSNSか、自社サイトか、広告か)、動画の長さと本数、参考にしたい動画、企画や台本を自社で用意するかどうかを、同じ文面で各社に送ります。渡した条件が同じなら、返ってきた見積書の違いを、各社が何を含めて何を外したかの違いとして読めます。
金額欄の外にある確認事項
見積書には、金額として数字になっている項目のほかに、金額の欄には現れないものの契約前に確認しておきたい条件があります。代表的なのが修正回数と納品形式です。
修正回数は、初回の完成版を提出したあと、何回までの修正が費用に含まれているかという条件です。回数の数え方も会社によって違い、大きな方向性の変更と細部の字句修正を同じ1回として数える会社もあれば、分けて数える会社もあります。何をもって1回とするかを、契約前に確認しておく必要があります。当社の見積書では、初校から2回までの修正を費用に含め、3回目以降は別途にすると明記しています。同じ形でなくても、回数と数え方が見積書か契約書のどちらかに書かれているかを確認してください。
図2 修正回数は、何回までかと、何をもって1回とするかの2つを確かめる
納品形式は、書き出すファイルの種類や画面の縦横比、解像度、字幕の有無などを指します。SNSで使うことを想定している場合、横型の映像だけを受け取っても、縦型の投稿にはそのまま使えません。受託の現場では、納品後になって「SNS用の縦型もほしい」という要望が出て、追加の書き出し作業が発生する場面がありました。見積もりの段階でどの形式で何本納品されるのかを確認しておけば、追加の依頼が発生したときも、もともとの見積もりに含まれる範囲なのか、追加費用が必要なのかをすぐに判断できます。
撮影で使った素材や、編集で使わなかったカットの映像データを納品後に受け取れるかどうかも、あわせて確認しておきたい点です。会社によって、完成版のみを納品する契約と、素材データも含めて引き渡す契約があります。
出演者や音楽を、いつまで・どこで使ってよいか
出演者の出演料、BGMの使用料、写真やイラスト、フォントの使用料は、制作会社が出演者本人や素材の提供元と、使ってよい期間と場所を決めたうえで支払っている費用です。見積書の金額は、その範囲の中で完成した動画を使う前提で組まれていることがあります。確かめておきたいのは次の4つです。
- 出演者が映っている映像を、いつまで公開してよいか、どのSNSや広告で使ってよいか
- BGMや効果音を、使う予定の場所で使えるか、使用料が金額に入っているか
- 写真・イラスト・フォントの使用料が金額に入っているか、使える範囲はどこまでか
- 完成した動画を、別のSNSや広告に回してよいか、回すときに追加の費用がかかるか
図3 使ってよい期間と場所を確かめる4つのもの
出演者の映像を使ってよい期間が決まっている場合、その期間を過ぎると、同じ動画を公開し続けられなくなることがあります。公開からしばらくたって、サイトに載せたい、広告に使いたいという話が出たときに使える状態かどうかは、見積もりの段階で決めた範囲で変わります。期間と場所が見積書の備考欄か契約書のどちらかに書かれているかを確かめ、書かれていなければ書いてもらってください。備考欄に書いてもらうとよいことは見積書の有効期限の目安と、期限切れ・記載なしのときの確認にも並べています。インスタ用の動画を広告にも使う予定がある場合は、インスタの動画制作を会社に頼む前に決める、出し先・仕様・素材に確認点を書きました。
見積書を受け取ったら
見積書を受け取ったら、金額の欄だけでなく、項目名の横に「ここには何が含まれているか」を書き込んでみてください。空欄が残った項目こそ、次の打ち合わせで確認しておきたい箇所です。修正回数、納品形式、使ってよい期間と場所のように金額の欄に出てこない条件も、見積書か契約書のどこに書かれているかを1つずつ確かめてください。複数社を比較する場合は、同じ質問を各社に投げて、回答を並べてから金額を見てください。